私のお友達に、美月 春ちゃんという踊り子がいる。小柄で、右頬にキュートな黒子があって、笑うと白い歯が光って、おっぱいとおしりがぷりんと張っていて、大層かわいい女の子だ。トランジスタグラマーという言葉がぴったりの彼女は、その見た目通り言動も大胆で、かつ繊細で、とにかく最高なのだ。私は彼女のことを知った瞬間から今の今まで、ずっとずっと彼女のことが好きで仕方がない。友人としてはもちろん、女性としても、アーティストとしても彼女のことが好きで、この「好き」を表現するにはたぶん、「ファン」を自称するのが一番だと思う。私は美月春ちゃんのファンだ。
美月春ちゃんの主な活動拠点は東京で、京都に住んでいる私はなかなか彼女の舞台を観る機会に恵まれなかったのだが、春ちゃんが大阪へ巡業にやってくるとのことで、やっと念願かなってショー劇場に足を運ぶことができた。
今回春ちゃんが出演している劇場は、雰囲気が明るく、女性一人でも入りやすかった。清潔な印象を受けたし、なにより、受付のお姉さんがとても気さくで、多少緊張していた私にも非常に優しく対応してくれた。快活な接客を受けるたびに、やっぱり私はわかりやすいものが好きだなと思う。ニコニコされて嫌な人なんかいやしないし、美しいお姉さんたちに「ごゆっくり!」と微笑まれるのはストレートに、すごくいいことだ。
客席には男性しかおらず、女性は私一人だったが、一日ずっと同じ席に座っているであろうおじさん、仕事帰りのおじさん、目当ての女の子の出番の時だけ入ってくる熱心なおじさん、いろんなおじさんがいた。このおじさん全て、美しくかわいいお姉さんたちが脱ぐのを観るためにここに集っているのだと思うと、とても興味深かった。みんな楽しそうで、この視線・視線・視線・視線の中で、私の大好きな春ちゃんも踊るのだと思うと、それだけで目頭が熱くなった。
春ちゃんの出番まで、他の出演者のショーも観劇したが、スタイルの良い美女が汗をかきながら爆音のBGMに合わせて踊ったり脱いで演技をする様はまさにアトラクションで、私の考える娯楽の全てが詰まっている感じがした。客席のおじさんたちにも目が行く。明らかにスケベなことを考えているであろうおじさんや、アイドルを見守るような眼差しを踊り子たちに向けるおじさんや、友達に連れられて来たおじさん。ダンサーが服を脱ぐまで、みんな一様にニヤニヤしていても、美しい踊り子が服を脱いだ途端、全員が真剣な表情になるのがすごく良くて、つい舞台と客席を交互に見つめてしまった。
なんとなく、親指と人差し指をこすり合わせながら前のめりになって舞台を見つめていたり、舌なめずりをしながら着物の裾と太ももの間をじっと凝視していたりするおじさん達の方が力強い存在のように思っていたのだが、彼女たちが一糸まとわぬ姿になった瞬間に、圧倒的な力が宿って、その場を制するのが見えたのだ。一瞬だけの一体感。それが本当に気持ち良かった。その瞬間の後は、広げられた脚に拝む人もいれば、その瞬間だけ目を逸らす人や、咄嗟に太ももの上に鞄を乗せて怒張を隠す人もいて、やっぱりいろんなおじさんがいることには変わりなかった。私も性別が違えば、ただのおじさんになれたのだと思うとなんとなく安心した。気分が良かった。
どの踊り子のお姉さんも美しく、贅沢な時間を私やおじさんたちに与えてくれていたが、春ちゃんももし、他のお姉さんたちと同じようにしっとり踊ったらどうしようと、プラスチックのコップに注がれたビールを飲みながら少し心配になった。私は春ちゃんの大ファンだし、どんな春ちゃんでも大好きだけど、友人として彼女のことを考えた時に、照れくささが生じたのだ。友人が、しっとりとした曲に合わせて、しっとりと脱いだら、恥ずかしくて見ていられないと思った。が、それは杞憂に過ぎなかった。春ちゃんは激しいロックナンバーを背に、金髪に染めた髪を揺らし、破れた網タイツと黒いブーツを履いて登場したのだ。私の知っている、大胆な春ちゃんだった。
ギターをかき鳴らし、椅子にまたがって腰をふり、笑顔を客席に向ける春ちゃんが出てきた瞬間に、「来て良かったな」と心から思った。私はバーレスクが好きなので、この演出は本当に嬉しかった。トランジスタグラマーは、スレンダーな美女よりも腕や脚の長さではかなわないかもしれないが、その分、胸やお尻が目立って、踊っている姿が本当に本当に本当にキュートだった。見ているだけで元気が湧いてくる。ピンナップガールのようだ。春ちゃん。わかりやすくって、大好きだ。コンサート会場だったら「しゅんちゃーん!!」と叫んでいたにちがいない。でも、拍手や手拍子以外の応援は認められていないとのアナウンスがあったので、ぐっとこらえた。この、少しもどかしい我慢の感じは、テニミュを観に行った時の気持ちににている。声に出して応援をできないというのは、なかなかむずがゆい。
ショーが進むにつれ、ピンナップガールとか、テニミュとか、そういう他のことを考える余裕は、すぐさまなくなった。春ちゃんが、RCサクセションの「ロックン・ロール・ショー」で踊り始めたのだ。キヨシローで服を脱ぐストリッパーがこの世界にいるのが、にわかには信じられなかった。「そうさこれはただのロックンロールショー」という歌詞が、私の戸惑いと正反対で、笑いそうになった。唐突だった。
私は忌野清志郎が大好きだ。彼が亡くなった時は彼の曲を聴きながら一晩泣き明かし、そのまま美容室に行き、「キヨシローが死んだんです」とだけ伝え、髪をキヨシローカットにしてもらったことがあるくらい、彼のことが好きだ。そんな彼の曲で、大好きな美月春ちゃんが踊っている。こんなこと、あっていいのだろうか?「あの娘ロックンロールスター!スター!ステージの端から端まで踊り続けてくれよ!!」これは春ちゃんと私の曲だ!!そうだ。決めた。今決めた。まるで興奮しちゃうね。自然と涙が溢れていた。喜怒哀楽、それぞれがピークまで来ると泣いてしまうんだなというのはこれまでの人生で分かっていたことだったが、いろんな感情がごちゃまぜになってしまうというのはなかなかの恐怖で、そういう時も泣いてしまうんだと知った。春ちゃんがこの曲で踊るというのは恐怖だったし、快楽だったし、何よりの喜びでもあった。かっこよかった。誰より圧倒的だった。
私がしんしんと泣き続けている間に、春ちゃんは回転する舞台の上に寝転がって、下着を取った。「スローバラード」が流れる。
これを書いている間も泣けてしまって仕方がない。私はキヨシローが死んでしまってからもキヨシローのことが大好きだし、曲だって毎日のように聴いているけど、これだけは、この曲だけは胸が詰まって、どうしても聴けずにいた。彼が死んで、数年これを聴いていなかった。大好きな春ちゃんが、舞台の上に寝そべり、悩ましげな表情をしながら服を脱いで、下着を取り、裸になって踊る曲がこれだと認識しただけで、嗚咽が出るくらい泣けた。いろんなおじさんがいたが、肩を震わせるくらい泣いていたのは私だけだった。興奮して春ちゃんを見つめていた周りのおじさんには申し訳ないことをしたが、どうしても涙が止まらなかった。
私は春ちゃんだけじゃなく、自分の友人が活躍しているところを見ると嬉しくて涙ぐむことがしょっちゅうある。私は友人達を愛しているし、彼らのことをうんと応援している。なので、春ちゃんのショーを観たら泣いてしまうだろうなという予感は、行きしの電車の中ですでにあったのだけど、号泣と言ってもいいほど泣くとは思っていなかった。春ちゃんがキヨシローで踊るなんていうのも予想外だったし、ベッドインの曲に「スローバラード」を使うなんて、本当に信じられないことだった。わかりやすいことがいくつも重なると、途端にわからなくなってしまうのだなと思った。奇跡的な夜を過ごしていると実感した。自動で回転する舞台で仰向けになって光や視線を浴びる春ちゃんは、すごく綺麗だった。恐ろしいくらい。悪い予感のかけらもなかった。愛おしかった。すごく綺麗だった。
私は自他共に認めるほどの泣き虫で、今までもたくさん涙を流してきたが、春ちゃんのショーを観て、多分、人生で五本の指に入るほど泣いた。一旦 舞台袖にはけた春ちゃんがサンボマスターの曲に合わせて、「プリケツ」と書かれたTシャツ一枚だけ羽織ってもう一度登場するというめちゃくちゃに明るくて楽しいショーを観ても、しばらく涙が止まらなかった。蛇口が壊れてしまったのではないかと心配になった。そういえば、春ちゃんの出番の少し前くらいに、若い男性二人が客席に入ってきて、最初は戸惑ったりニヤニヤしたりしていたのが、サンボマスターで踊る春ちゃんを観て、素のトーンで「かわい……」とつぶやいていたのが最高だった。かわいいよな。だよな。わかるよ。
春ちゃんのソロの出番以外で印象に残っているのは、布袋のバンビーナでのダンス。「ヌードになったら天使の羽根がバレるぜバンビーナ」という歌詞で楽しそうに踊るお姉さんたちは、天使以外の何物でもなかった。お昼から夜遅くまで、笑顔で踊り続けている彼女たちには頭が上がらない。いくら休憩を挟んでいるとはいえ、踊って踊って踊って、脱いで、笑って、とてつもない重労働だ。彼女たちを観ていると、明日もがんばろうという、私にしては珍しい類のやる気が湧いてくる。素直な元気をもらえた。そんな仕事は他になかなかないし、私は彼女たちのことを本当に尊敬している。
ショーの後、春ちゃんと食事をする約束をしていたので、待ち合わせの場所に向かおうとロビーを通ろうとしたら、受付のお姉さんに声をかけられた。「お姉さん!今日どうでした?」やっぱり気さくでいい人たちだ。とにかく楽しかったことと、この値段で一日中見放題という点が素晴らしいこと、またぜひ来たいという旨を伝え、春ちゃんの友達だということも話すと、「声かけなくて大丈夫ですか?」とまで言ってもらえた。明るくて可愛くて優しいお姉さんと話をするのはいつでも最高だなと思う。
待ち合わせ場所で春ちゃんと合流するなり、私は彼女に抱きついて、思わず泣いてしまった。春ちゃんをびっくりさせてしまったが、彼女は笑って私の背中を叩いてくれた。数年ぶりに会う春ちゃんはちっとも変わらなくて、舞台の上で恐ろしいまでに綺麗だった春ちゃんも、私の隣の席に座る春ちゃんも、どっちも春ちゃんらしくて、どっちも大好きだなと思った。
「今日な、もう、めっちゃ、めっちゃ良かった。ほんまに楽しかった。私な、キヨシロー大好きやねんか」と私は興奮さめやらぬまま、春ちゃんに感想を述べた。もしかしたら、春ちゃんは私が来るから、それに合わせてキヨシローをかけてくれたんじゃないかと思ったからだ。そのくらい、ドンピシャなセットリストだったのだ。しかし春ちゃんは「あ、そうなのー!?全然知らなかったー!キヨシローの命日のことも知らなかったくらいなんだよね、あたし」と言ってビールを飲んだ。いよいよ最高だった。やっぱり春ちゃんは、わかりやすくっていい。

